アイティメディアでは、3か月に1度、「キャリア寺子屋」(※)を開催しています。今回は、BtoBメディア事業本部 メディア本部 編集局 NB編集統括部 企画制作部長の後藤治に、「なりたい自分をうまくイメージできなかった」ところからスタートした自身のキャリアや、編集・執筆職として経験を積み、現在は企画制作を通してメディアの価値向上に取り組む中で考えてきたことを語ってもらいました。
(※)当社では、リモートワーク下で減少してしまった「人」を知る機会の創出、そして社員が自身のキャリアを検討していく上で参考になる情報の提供を目的として、「キャリア寺子屋」という任意参加型研修を運営しています。「キャリア寺子屋」では、当社の社員が登壇し、これまでの経歴やそこでの学び、キャリア選択における価値観などを共有しています。
メディア価値向上のための企画指揮
私は、2021年から、企画制作部長のポジションを担っています。企画制作部が行っていることは、クライアントのデジタルマーケティングを支援するコンテンツ制作です。部長としての業務は、主に「 ITmedia NEWS」や「 ITmedia ビジネスオンライン」で展開する記事広告や、デジタルイベントの企画・制作を指揮することです。部メンバーや、編集部、営業部、商品開発(XXPro)などさまざまな部署と連携して、メディアとしてのITmediaの価値向上に取り組んでいます。
思考をつくった体験と学習
現在に至るまでのキャリアは、子供のころからの体験と学習で培われた、「感情やひとつの価値観に縛られすぎず、柔軟に考えて、その時の最善の策を実行し続ける」という姿勢に支えられています。
体験の最初のひとつは、囲碁です。私は小学生の頃、通知表に「じっとしていられない」と書かれるような子供でした。父が心配して、感情をコントロールする方法を学ぶために、囲碁を勧められたのです。
おこづかいにつられて始めたのですが、最初のうちはもちろん勝てず、悔しくて泣いてしまうこともありました。そのうち、泣いても怒っても結果には関係ないということを学習しました。また、指した手をなかったことにはできないので、現時点で最もよい策を常に考え続けるしかないことも理解できました。勝敗が全て自分の責任で決まるというのは、逃げ場がないので、子供にはなかなか辛い体験だったとも思いますが……。
囲碁で頭を使う訓練をしたので、身体も使ってみようと考えて、空手も始めました。空手から学んだのは、身体を使うと痛いことです。逃げ足も速くなりました(笑)。
その後、考古学を大学時代の専攻として選びました。ちょうどインターネットが普及して、世の中が大きく変わる時期でした。そんな中で、私は「過去は、現在から操作することができず、変わらないものではないか」と考えて、興味を持ちました。しかし、学んでいくうちに、自分の目論見が外れたことに気づきます。学問で扱う過去は、あくまでも現在の価値観で再構成したものでした。過去も、現在と同じく、ある意味で変わっていくものだと理解しました。
また、海外渡航研究会というサークルでも、体験からの学びがありました。各自で海外渡航して見たものや体験したことを、ときどき集まって報告しあう、「ひとりサークル」のような活動をしていました。私もいろいろ旅行をして、最後は長期間日本を離れていたのですが、帰国したときに、元いた場所へ帰ってきた感じがせず、旅がまだ続いているような違和感がありました。共同体の根拠になるものも、絶対的ではなく、不確かなものだと分かりました。
学びは得たものの、そういうことをしていると、留年してしまうんですよね……(笑)。留年していた時期は、ずっと家にいて、本を1000冊以上読んで過ごしました。
「そろそろ社会参加」から始まった編集者のキャリア
その後、自分で「そろそろ社会参加してみてもいいんじゃないか」と思ったタイミングで、ソフトバンクグループの会社にアルバイトで入社しました。記事執筆業務などを経て、紙媒体の雑誌のコンテンツを、Yahoo! JAPANにデータ配信するスタッフとして「PC USER」編集部に所属しました。
紙媒体だったころの「PC USER」は、月2回発行されていました。当時は、校了後はみんな編集室に寝袋を置いて寝ているような「古き良き編集部」でしたね。私の仕事は、編集長がピックアップした記事をデータ化して、Yahoo! JAPANに送信することでした。自動化するシステムを組んで、1か月分の仕事を2日で終えられる状態を作っていたので、手が空いていることも多かったです。その様子を見た、現在の「PC USER」編集長に、発表会に行って取材をしてくるよう頼まれ、記事の執筆も頼まれ、「編集後記が提出されていないんだけど」と言われ……という感じで、自分でもよく分からないうちに、いつの間にか「PC USER」の編集者になっていました。
Webメディアの編集記者として手掛けたもの
「PC USER」では、編集記者として、また後には編集長として、媒体を運営していました。掲載していたのは、ガジェットやテクノロジーを中心とするBtoCコンテンツです。この頃印象に残っている仕事のひとつは、今から17年前、Macworld Expo 2007が開催されたサンフランシスコで、Moscone Center Westのステージから、Apple創業者のジョブズ氏が初代iPhoneを片手に「歴史を作る」と語った瞬間を現地で取材していたことです。イベントの開場前に、待機中のプレスを尻目にゲスト用エスカレーターを登っていく孫社長を見かけて、自分が歴史の一場面に立ち会っているような不思議な気分になったことを覚えています。
そこから「ITmedia ビジネスオンライン」に異動し、副編集長になりました。「ITmedia ビジネスオンライン」で手掛けた大きな仕事は、働き方改革を推進する特集「#SHIFT」です。コロナ禍で、ビジネスパーソンのワークスタイルは、リモートワークなど急激に変化しましたよね。「#SHIFT」では、その潮流に先駆けて、横断特集「日本を変えるテレワーク」やキャンペーン特集「『Web会議、OKです!』」などを企画し、現在の自由な働き方を後押しするさまざまな施策を実施しました。その後、冒頭でお話ししたように、2021年から企画制作部長に就任し、記事広告やデジタルイベントの企画・制作を指揮しています。
自分のためにも他者貢献
私が仕事で大切にしていることは、「他者貢献」です。もちろん、全ての仕事は他者貢献に結びついているのですが、その他にも理由があります。
理由の1つは、人間にとって、他者貢献は安心と満足を得るために欠かせないものだからです。人間は、ひとりでは生きられない時代が長かったので、孤独は怖いものだと感じ、社会的なつながりを感じられないと不安になるのだそうです。反対に、他者への貢献や社会的つながりを感じているとき、脳は興奮するようになっています。
別の理由として、自分ができることに専念するのが効率がよいという私の考えもあります。自分ひとりでできることは、誰しも多くはないものです。だからこそ、もし自分ができることで、誰かのためになるものがあれば、積極的に取り組むべきだと思います。自分が得意なことで貢献すれば、苦手なことは他者が補ってくれます。ただし、他者にフォローしてもらって空いたリソースの一部を自分に投資して、できることを増やし、貢献の量や質を拡大していくことは欠かせません。
悩まない、恐れない
今日までのキャリア形成では、「ビジョンがないことに悩まない、失敗を恐れない」ということを考えて挑戦してきました。
まず、将来のビジョンがないことに悩まなくていい、という理由ですが、そもそも将来どうなりたいかと個人が考える必要が出てきたのは、ここ100年くらいのことです。将来のビジョンを自ら描いて、実現のために努力しなくてはならない、というのは、いわば少し期間の長いトレンドです。だから、将来のビジョンを描けないことも、それほど悩む必要のないことだと思います。
そして、失敗を恐れないという話です。どんな挑戦であっても、成功するためには運が必要です。運は自分で制御できませんから、「たまたま運があった」という状態が巡ってくるまで、試行回数を増やしたらいいのではないかと思います。特に、今の自分にとって難しい目標を掲げているときは、何回も挑戦できるよう、達成までの時間軸を長く取る方がよいのではないでしょうか。試行回数を重ねるうちに、実力がついたり、運が回ってきたりして、ある時達成できることもあります。現在の自分から見える目標の高さは、将来の自分から見える高さと同じではありません。今の自分にとって難しく見えるというだけで、目標を持つこと、達成することを諦めなくてよいと思いますよ。
とはいえ、「失敗するのはどうしても怖い……」という人もいるかもしれません。そういう場合、失敗を繰り返すことで慣れるしかないと思います。私は、新しいことを始めて、成功にたどり着くまでの過程で、9割は失敗するものだと思っています。何回も挑戦して、失敗を重ねているうちに、成功するためのポイントが次第に見えてくることもあります。目標は意外と達成できるものだと気楽に考えてほしいと思います。
自分の「飽きない」幸福のために
私はキャリアをスタートしてから今日まで、ずっと記事作成や企画の仕事をしてきました。しかし、同じことを続けるのが必ずしも好きというわけではありません。自分があまり幸福でないと感じた時期を振り返ってみると、全て現状に飽きてしまったときだったのです。
飽きを感じると、新しいことを始めてみて、しばらくは満足できます。しかし自分の考えつく新しいことの範囲は限られていて、次第にその範囲自体に飽きてきてしまいました。そこで、気が進まないこと、今の自分が全く興味のないことにも、あえて挑戦するようにしてみました。やってみた結果、自分自身が必ずしも楽しめるようになるわけではありませんでした。しかし、楽しめなかったとしても、自分にとって面白くない理由が分かって自己理解が進んだり、他の人たちが楽しんでいる点を理解できて視点が増えたりしました。
これまでのキャリア、そしてキャリアを支えている体験や学習を総合すると、私は常に挑戦し続けてきたと思います。挑戦することで、他者貢献だけでなく、私にとっての幸福である「飽きない」ことも実現できます。そして、ひとつの挑戦が成功しても失敗しても、学びを得て、新しい挑戦に活かすこともできます。キャリアに向き合い日々努力している人も、「なりたい自分」が分からない人も、失敗を恐れずまずはやってみることを大切にしてほしいですね。