新型コロナウイルス感染症の拡大から約1年。世の中が新しい生活様式を取り入れていくのに合わせて、当社も働き方やワークフローを見直してきました。現在は「スマートワーク制度」を使って、多くの従業員がリモートワークを前提とした働き方へシフトし、離れた場所にいても滞りなく業務を進められるようになりました。
しかし、対面で仕事をしていたときとは当然勝手が違います。「会社の方針や経営層の考えが見えづらい」「他のメンバーと気軽にコミュニケーションを取れない」――といった問題も出てくるようになりました。
もともとスマートワーク制度では、こうした問題を防ぐため「部門ごとに週1日以上は出社日を設ける」といった対策を用意していましたが、コロナ禍においては従業員の安全が最優先ということで、出社日の導入は見送りに。新しい解決策として、当社では今期から「社長との1on1面談」と「社長が従業員の疑問に直接答えるライブ配信」の2つに取り組むことにしました
この記事では、後者のライブ配信――通称「大槻チャンネル」で実際にどんな情報発信を行ったのかをご紹介します。
大槻チャンネルは、全従業員が参加するZoom会議で、あらかじめメンバーから集めた質問に、社長の大槻が答えていくというもの。初回のメイントピックは、この1年で大きく成長し、当社の3つめの柱となった「デジタルイベント事業」です。
「第1回 大槻チャンネル」スタートです
――そもそもデジタルイベント事業を始めたきっかけは?
大槻: きっかけは、2008年に起きたリーマンショックです。皆さんも、日本や世界の経済が大きく傷ついたことが記憶に残っているかと思います。
当社は創業から約10年の間、広告商品の“一本足打法”でやってきたのですが、リーマンショックの影響で、マザーズ上場以来初めて赤字になってしまいました。
赤字は2年続きました。当時はリードジェネレーション事業も成長途中でしたし、ねとらぼも今のように大きなメディアではありませんでした。今では約20年になるアイティメディアの歴史の中でも、かなり厳しい時代だったと思います。私も会社存亡の機に、「なんとか新しい収益源を作らないといけない」「社長が自ら責任を持って次の道を切り開かなければいけない」と焦っていました。
その頃、海の向こうのアメリカで「デジタルイベント(※2)」が話題になっていることを知りました。そして、メディア事業と非常にシナジーがあることに気付いたんですね。
(※2)展示会やセミナーなどのリアルのイベントをインターネット上で開催できるサービスのこと。「バーチャルイベント」と呼ばれることも
営業の皆さんがよくご存じの通り、イベントや展示会というのは、当社のお客さまにとってとても重要なマーケティング施策の1つです。デジタルイベントは、この分野に「新しい価値の創造」や「大幅なコストダウン」といった革新をもたらせるかもしれないと考えました。当社が持っている強力な法人営業力を生かせるというポイントもありましたしね。
すぐにシリコンバレーに飛び、いろいろな企業を見てきました。そこでON24社に出合って、彼らとパートナーシップを組むことにしたんです。その後は厳しい時代もありましたが、いずれ需要の波が来るだろうと信じて10年近く取り組み続けてきました。
そして、コロナ禍の影響でこれまでリアルでやってきたイベントが休止することが増え、デジタルシフトの要望が高まってきたことでさらに大きく成長し、今に至ります。
―――コロナ禍による需要増は予期せぬ出来事だったはず。デジタルイベント事業へ注力しようと決めた裏には、どのような経営判断があったのか。
大槻: 1月から当社にいた方は覚えているかもしれませんが、1月中旬に会社創立20周年記念イベントをやりましたよね。そこから1カ月もしないうちに、大型クルーズ船でのクラスタ発生が話題になりました。
当初コロナウイルス感染症の拡大は対岸の火事のように受け止められていましたが、2月に入ると様相が変わってきましたよね。2月には天皇誕生日の一般参賀が取りやめになり、3月には東京マラソンが縮小開催になるなど、日本中で大型イベントを休止する動きが出てきました。当社でも、2月に営業本部から「受注していた対面式のフィジカルイベントが軒並み中止になりそうだ」という報告が経営会議に上がってきていたんですね。
幹部の皆さんと話し合いを重ねて、最終的に会社として出した結論は、「売り上げを毀損しても構わないから、フィジカルイベントを全て中止し、クライアントにデジタルイベントを切り札として再提案しよう」というものでした。
副社長の小林さんには「『売り上げを毀損しても構わない』なんて言葉は、創業以来初めて聞いた」と言われましたが、確かにその通りで、社長は会社のアンカーですから、「売り上げを気にしなくてもいいよ」とはなかなか言えません。しかし今回は、そうすることがアイティメディアの価値観に合致していると考えたんです。世の中が大きく変化するタイミングにおいて、後悔をしない意思決定をするためには、会社の原点に立ち返ってどうするか決めるべきだと思いました。
アイティメディアは、多くの競合他社がプリントメディアを続ける横で、潔くオンライン専業メディアにかじを切り、インターネットの未来に賭けてきました。これが当社の原点です。そして、デジタルイベントへのシフトは、これまで当社が目指してきた価値観とも合致していましたから、多少の凸凹には目をつむって、正面から取り組むことにしたんです。
こうした方針を打ち出すにあたっては、「デジタルイベントへのシフトに関しては、社長が責任を持つ」というメッセージを明確に発信したことで、現場の皆さんにも安心していただけたのではないかと思います。
その後どうなったかは、皆さんもご存じの通りです。営業本部や事業本部の皆さんのおかげで、既存受注も含めて、ほぼ100%のイベントをバーチャル開催に切り替えることができました。一方で、一気にデジタルイベントの需要が高まったことで、お客さまにキャンセル待ちやお断りのお返事をしなければならないこともありました。
現場の皆さんは、難しく、量の多い仕事をしっかりとさばいてくれていますが、急激な需要の波に、会社の体制が追い付かなくなってしまったからです。会社としては、お客さまのご要望に応えられず、じくじたる思いでした。
すでに10月からデジタルイベントを事業部として独立させ、より素早く意思決定できるような体制を整えましたが、今後もしっかりと事業を作っていくことで、お客さまの需要に応えていきたいと考えています。
――バーチャルイベントは今でこそ好調だが、それはコロナによる一過性の盛り上がりではないのか。本当に当社の事業の柱として成長させることができるのか。
大槻: デジタルイベント事業の急激な成長の裏には、コロナ禍による特需という側面があることは否定できません。今後の情勢もまだ見えませんが、場合によっては一定の反動があるかもしれません。われわれ自身も含め、日本全体が「人と人が会うこと」「対面でやること」が制限されることに対してストレスを抱えていますからね。
しかし、事業を成功させる上でもっとも重要なのは、社長や従業員が事業への思いを持って、しっかりと取り組んでいくことだと思います。私は、デジタルイベント事業が当社の新しい成長軸になってくれると信じています。それに、この事業を通して「社会の変革に貢献できる」というのは、従業員の皆さんのやりがいの1つになるのではないでしょうか。
ニュースなどで皆さんも耳にしていると思いますが、政府や自治体がこれまでいかにデジタル化をサボっていたかが、露呈してきましたよね。“ハンコ問題”などをはじめ、さまざまなところで「デジタル化」が求められている。そうした中で、デジタルイベント事業は「対面イベントのデジタル化」という形で、社会の要請に応えていけるんですね。
もちろん、アイティメディアは企業ですから、その事業で収益を拡大していくことも大切です。しかし、事業を通じて社会の変革に貢献できるというのは、とてもやりがいのあることではないでしょうか。
一方で、デジタルイベント事業は、これまで当社が取り組んできたメディアやリードジェネレーションといった事業とは、ビジネスモデルや収益性、必要な人材、競争相手など、さまざまな面で異なります。それに対して、われわれは理解と覚悟をもって取り組まなければいけないでしょう。
ですので、これまでお伝えしてきたさまざまな判断は全て、しっかりと経営ボードの皆さんと話し合い、幅広く意見を求めて、合意形成をしてきました。社長の独断ではなく、丁寧に議論した上で決めたということを、ここでお伝えできればと思います。
――すでにデジタルイベント事業部の体制変更を行ったとのことだが、まだ負担が大きい部署もある。10月の全社会議では「増員して対応する」と言っていたが、逼迫した状況は続いている。今後会社としてどう対応していくのか。
大槻: 問い合わせが増え、案件が増え、売り上げが増えるにつれて、関係部署の皆さんの負担が増えてしまっていることは事実です。社員の皆さんには、大きな負荷をかけてしまったことを、この場でおわびします。また、こうした状況下で大きな成果を出してくださったことに心から感謝したいと思います。
会社としても業務負荷の軽減に取り組んでおり、今も急ピッチで人員の獲得を進めています。すでにこの1年で約50人の新しい仲間を迎えることができました。デジタルイベント事業でも、映像やテレビといった今後必要になってくる新たな知見を持つ方を採用することができています。
全体としては改善に向かっていますが、未だ特定の人や部署に業務が集中してしまっている部分もあります。今後はいち早く現場の状況を把握し、優先的にリソースを確保したり、組織改編を進めたりすることで、対応していく予定です。
合わせて、創業して20年がたったことでレガシー化・老朽化が進んでしまった業務フローやシステムも見直していきます。具体的には、「BPRプロジェクト」として数億円を投資し、数年掛けて業務プロセスの改善を進めます。特に営業本部や事業本部のプロセスを大幅に改善していく予定です。
働き方については、すでにスマートワーク制度を導入していますが、今後もコロナ収束のいかんを問わず、当制度をアイティメディアのスタンダードとしていきます。もちろん改善すべき点は改善していきますが、大きな方向性として、従来の「毎日会社に出社する」という働き方に逆戻りはしないつもりです。
皆さんの理解や協力によって定着しつつあるスマートワーク制度を、アイティメディアの強みや魅力の1つにしていこうと考えています。今後も、時間や場所の制約をなるべく取り払い、従業員一人一人が多くの裁量を持ち、自律的に仕事に向き合える会社を目指していきたいということですね。
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いかがでしたでしょうか。今後も「大槻チャンネル」では、毎月メンバーの声を拾い上げながら、経営層の声を直接届けていく予定です。アイティメディアのミッションや事業について、より詳しい情報をお求めの方は、以下も合わせてご覧ください。
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