「広告で稼ぐ」と「読者のための記事を書く」は両立できるのか?

 以前の記事では、アイティメディアのビジネスモデル――「広告」と「リードジェネレーション」についてご紹介しました。多くのWebメディアが広告費に支えられていることは多くの方がご存じかと思いますが、それによって当社にはこんな質問が届くことがあります。

当社のビジネスモデル(21年3月期第1四半期決算資料より)

 
 「広告費で稼いでいるメディアの記事を信用していいの?」
 「実はクライアントの良いところばっかり書いているんじゃない?」

 そこで今回は、読者から信頼してもらえる記事を作るために、アイティメディアで行っている取り組みや工夫についてお話したいと思います。

「編集コンテンツ」と「広告コンテンツ」

 1つ目の取り組みは、「編集コンテンツ」と「広告コンテンツ」の区別です。アイティメディアでは、編集部門が読者のニーズやメリットを最優先に考えて制作したコンテンツを「編集コンテンツ」、クライアントからお金をもらって制作した記事広告などを「広告コンテンツ」と呼んでいます。

 この2つは何が違うのか。「依頼を受けて作ったものかどうか」「企業から金銭的な協力を得たものかどうか」というのもありますが、一番の違いは「当社の編集部門が独立した編集権を持っているかどうか」です。

 ここでいう「独立した編集権」とは、アイティメディアが以下のように定義しているものを指します。

(1)読者ニーズ、読者メリット、社会的意義、公平性を優先します
(2)コンテンツの内容、本数、個別コンテンツの掲載・非掲載について、特定企業・団体に事前の約束をしません
(3)コンテンツの掲載前に、特定企業・団体からの原稿・内容チェックを特段の理由なく受け入れません
(4)依頼原稿の執筆者を除いて、編集部門の意思に反する改変指示等を特定企業・団体から受け入れません。
※上記にかかわらず、法律の及ぶ範囲もしくは公序良俗に抵触し得る内容等、アイティメディア報道倫理綱領を逸脱するコンテンツに、編集権の独立性を保証するものではありません

(以上、アイティメディア「コンテンツの情報開示方針」より)

 ざっくりまとめると、「コンテンツをクライアントや取材先にとって都合のよい内容にねじ曲げることはしません」「真実を正確に伝える・他者の権利を守るといった倫理を守ります」「そうした基準を満たさないものを『編集コンテンツ』として扱いません」ということです。

 編集コンテンツは各媒体がそれぞれの読者のニーズやメリットに合わせて制作するものですが、広告コンテンツには「クライアントの商品やサービスの認知度を高めたり、購入につなげたりする」といった目的もあります。広告コンテンツには広告としての意義や良さがありますが、それをあたかも編集コンテンツのように見せるのはルール違反ですし、何より読者に対して不誠実ですから、絶対にしてはいけません。

 では、両者を区別するために具体的に何をしているのか。まず、広告コンテンツには必ず「PR」など、読者が広告だと判断できる表記を入れるようにしています。また、記事広告などの場合「掲載ページのヘッダーを広告用のものにする」「掲載ページ内に広告主や掲載内容の有効期限を明記する」といった工夫も行っています。

 また、クライアントから受注した広告コンテンツでなくとも、制作にあたって特定の企業や団体から金銭的な協力があった場合には、その旨を明記するようにしています。「金銭的な協力って何?」と思われる方もいるかもしれませんが、例えば、企業や団体が複数のメディアを招く取材ツアーを開催し、取材にきた記者などの交通費や宿泊費を負担する――といったケースなどが該当します。

 取材ツアーで見聞きした内容は、編集部門が「掲載価値がある」「読者のメリットになる」と判断すれば、編集コンテンツに活用することがあります。掲載可否やコンテンツの内容を決めるのはあくまで当社の編集部門であり、仮にツアー主催者から指示があっても受け入れないと決めています。

 とはいえ、通常の取材とは事情が異なるのもまた事実。そこで、こうしたケースでは企業負担で取材に参加したことを明らかにするため、掲載ページ内に「取材協力:○○○(企業名)」などと記載するようにしています。例え編集部門が独立した編集権を持っていたとしても、取材~記事掲載までに何らかの形で企業や団体から金銭的な協力があったなら、それを明記することが、読者に対し誠実な姿勢だと考えているからです。

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「読者ファーストの編集記者」でいられるのは「クライアントファーストの営業」がいてくれるから

 編集記者の仕事は読者を第一に考えてコンテンツを作ることですが、メディアとして情報発信を続けるには、当然お金が必要です。そして当社は、本や新聞のように、読者からコンテンツに直接お金を払ってもらうビジネスモデルではありません。一企業として「稼ぐ」ことができるのは、ITとその周辺領域を中心に取り扱うメディア(=その領域に興味関心を持つ「読者」が集まる場所)に価値を感じて、広告やリードジェネレーションを活用してくれるクライアントがいるからです。

 この2つを両立するため、アイティメディアでは、記事を企画・制作する編集記者と、企業の課題解決をサポートし広告を受注する営業を別の事業部に分け、役割分担する形で業務を行っています。編集記者はあくまで読者を第一に考えて記事をつくり、営業はクライアントに寄り添うパートナーとして課題解決を行う、というスタンスです。

 以前の記事でもお話したように、「読者のニーズ」と「クライアントのニーズ」は食い違うこともままあります。それでも編集記者が「読者ファースト」の姿勢を崩さないのは、メディアを運営するものとしての矜持(きょうじ)もありますが、読者に向けて誠実にコンテンツを提供し続けていくことが、「商品としてのWebメディア」の価値を守ることにもつながるからです。

21年3月期第1四半期決算資料より

 
 信頼できないメディアに読者は集まりません。読者がいなくなればなるほど、広告の効果は下がっていきます。こうなると読者はもちろん、広告を出してくれたクライアントのためにもなりませんよね。アイティメディアとしても「広告を出しても効果のないメディア」だと思われては困ります。まっとうなメディア運営を続けることは、広告で稼いでいくために不可欠なことでもあるのです。

 ですので、クライアントから「これ取材して記事にしてよ」「このイベント取り上げてくれたら広告出すからさ」などと提案されても営業は「ルール違反になるのでダメですよ」と説明して「それはできません」とお断りしています。教えてもらったイベントや商品情報を編集記者に伝えることはできても、実際に取材するかどうか、記事にするかどうかは、編集部門の判断次第。クライアントも営業も強制することはできません。あくまで編集部が「読者のためになるか」「記事にする価値があるか」を基準に決めるというルールです。(※大半のクライアントはこのことを分かってくださっているので、実際にむちゃな要求をされることはあまり多くありません)

 では、編集部はどんな指針で記事を作成しているのか。それを具体的にまとめたのが「アイティメディア報道倫理要綱」です。

 編集記者を目指す方にはぜひ一度原文を読んでいただきたいのですが、ざっくりまとめると以下のようになります。

(1)報道の自由:公権力や圧力に屈しないこと、それによって報道内容のねじ曲げ、捏造(ねつぞう)、修正などを行わないこと
(2)人権と名誉の尊重:真実を正確に伝えること、偏見を肯定するような取扱をしないこと
(3)法の尊重:憲法や法律などを順守し、他者の権利を守ること。犯罪を正当化したり助長したりする表現は行わないこと
(4)社会・風俗:秩序や道徳を尊重し、社会的弱者の人格を損なったり職業差別を行ったりするようなコンテンツを扱わないこと
(5)報道姿勢:誠実で公正な取材・編集を行い、人々の「知る権利」に応えること。情報源は基本的に明示し、公平で多角的な報道を心掛けること
(6)報道表現と公開性、迅速な訂正:読者に誤解を与える表現などは避け、意見や苦情には真摯(しんし)に耳を傾けること。誤報や訂正すべき情報は速やかに取り消すか訂正すること

 誰もが気軽に情報発信できる時代に、なぜメディアを運営し続けるのか。何をもってメディアを名乗るのか。編集記者を目指す皆さんは、一度しっかりと考えてみてくださいね。

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 最後にアイティメディアの理念をご紹介します。当社の理念は「メディアの革新を通じて、情報改革を実現し、社会に貢献する」こと。編集記者であれ、営業であれ、目指すところは変わりません。

 この理念を実現するのに「どんな姿勢でメディアを運営していくか」を担うのが編集なら、「どうすればメディアの価値を損なわずに顧客のためになることができるか」を考えるのが企画や営業です。どちらかが偉いわけでも、どちらかだけがいれば良いわけでもありません。読者とクライアントの双方を大切にしながら、価値あるメディアとして情報発信を続けるための役割分担であることを意識し、お互いの仕事を理解していくことも大切です。