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没入と発掘 DXの中でIT領域Webメディアを担う編集記者

 アイティメディアは、1999年にIT分野の総合情報サイトとしてスタートしました。創業25周年を迎える2024年の現在でも、IT領域のメディアは重要な軸のひとつです。DXが注目される中で、IT領域メディアの記事を作成する編集記者は、どのようなことを考え、情報発信の役割を果たしているのでしょうか。

 この記事では、BtoBメディア事業本部 メディア本部 編集局長の永井利洋と、BtoBメディア事業本部 メディア本部 編集局 DX編集統括部 メディア開発部長の垣内郁栄へのインタビューを通して、今日のIT領域Webメディアと編集記者の役割、アイティメディアでのキャリア形成の在り方をお伝えします。聞き手は、管理本部 人事統括部 HRリクルート&サポート部長の木幡です。

DXとともに強まる存在感

――おふたりには、IT領域メディアの責任者として、編集記者の採用に日頃からご協力いただいています。採用の場面で、責任者のひとりから「企業でIT戦略を担う人に情報を届けることは、業界全体を動かしていくことと同義で、非常に重要なこと」と聞きました。まず、今日のIT領域でメディアが担う役割を教えていただけますか?

垣内: 現在、DXがこれまでになく重要視されています。その中で、IT領域の情報発信を担うメディアは、重要な情報を選んで届ける役割を担っています。

 今日では、情報量が多くなっており、ひとりが全ての情報を読むことはできなくなっています。そこで、メディアが情報の正しさや重要度を判断して、読むべき情報として届ける必要があります。メディアそのものが、読者から情報の選択を行う主体として信頼を得ていることが、情報の価値を高めるために欠かせません。

 私がIT領域のメディアに長年携わってきて感じたこととして、メディアの社会的責任の変化があります。以前、企業内のITの立ち位置は、バックエンドで会社を支えるものでした。しかし現在は、DXの文脈で、企業がデジタルを使って会社を成長させはじめ、ITが会社の中心に位置づけられています。それに伴って、われわれが運営するIT領域メディアは、バックエンドとしてのIT部門を支える役割から、企業を成長させる役割も担うようになりました。

 また、企業のIT部門向けに製品やサービスを提供する企業にとっても、われわれのようなメディアを通して情報発信をするメリットが大きくなりました。先ほどお話しした通り、情報があふれる中で、企業の担当者自身が全ての製品を深く理解し、比較検討することは難しくなっています。そこで、メディアを通して製品の情報を伝えると、製品のメリットを分かりやすくアピールしたうえで、信頼性も担保できるのです。現在は発信チャネルも多様化し、企業が直接情報を届けることも容易になりました。しかし、専門メディアのフィルタリングを経た情報に、読者は高い価値を見出します。SNSの普及など、情報発信の主体は増加しましたが、メディアの価値は埋もれることなく、むしろ高まっていると認識しています。

専門家を発掘する

――メディアを通して信頼性の高い情報を発信する役割は、ますます重要になっているのですね。それでは、編集・執筆を行う社員が、今日の社会で期待される役割を担うために必要なものは、何だと考えられますか?

永井: 一言で表すと、情報を発掘する力です。専門性の高い情報がますます必要とされる一方、情報量はありすぎると言ってもよい状態です。編集記者には、埋もれている優れたコンテンツや情報発信者を見つけ、発信の手助けをする能力が求められています。

 たとえば、企業でDXに取り組む読者に向けては、それぞれの産業や業種に特化した情報を届ける必要があります。そのため、編集記者自身の知識のみでは追い付かないことがあります。新たに専門家やパートナーを開拓する、国内外の優れたコンテンツを紹介するといった、より広範囲な視点が必要になってきます。各産業のビジネスモデルに関心を持つことは、読者に対してのエンゲージメントを深めることにもなります。

――専門家の情報発信のサポートというお話がありましたが、具体的に何を行っているのでしょうか?

永井: 情報の整理や文章の組み立てです。専門家は、知識は深いものの、分かりやすく伝えることのスペシャリストではないことも多いです。一方、編集記者は情報源を見つけ、情報を整理して再構築するといった、分かりやすく伝えることが強みです。価値のある知識を持った専門家を発見し、読者に伝わる形の構築をサポートしています。

垣内: 永井さんのお話で出た「再構築」は、とても適切な言葉だと思います。編集記者は、専門家の知識を再構築して、情報を求める読者に分かりやすく伝える仕事です。つまり、編集記者は、いわば専門家と読者の間でハブの役割を果たしています。

 ハブの役割を果たすというと、難しそうに思われるかもしれませんが、実はそれほどハードルは高くないと考えています。なぜなら、ビジネスパーソンであれば、情報のハブになる役割は、日々の業務で必ず担っているからです。たとえば営業職は、自社の製品とクライアントのハブとして、製品の価値をクライアントのニーズに合わせて再構築し、伝わりやすい形でプレゼンしていますよね。もちろん、IT領域の専門家と読者のハブになるためには、編集記者独自のスキルが必要です。しかし、読者に伝わる記事の作り方は、入社後にトレーニングをして身に付けてもらえるよう、体制を整えています。実際に記事を作成する際は、編集記者のスキルにプラスして、自分のキャリアに固有の経験を活かせる場面がたくさんありますよ。

興味ある分野に「没入できる」ことが、発掘力の源になる

――専門外の立場からは、編集記者のトレーニングはイメージしづらいかもしれません。どのようなトレーニングを行うのでしょうか?

垣内: IT領域メディアの編集部では、経験年数などに応じた到達点をあらかじめ用意し、それを達成できるようなトレーニングのセットを用意しています。

 たとえば、執筆をメインミッションとする場合は、最初にアイティメディアの用字用語の規則を学びます。次は、プレスリリースを元に記事を1本執筆してもらいます。その成果物を、先輩記者が添削し、フィードバックします。OJTに近い、メンターとなる先輩が付きっ切りのようなトレーニングです。その後も、企画を立ててみる、専門家にインタビューしてみる、寄稿された原稿を整理する、とステップを踏んで成長してもらえるよう、トレーニングを設計しています。既に何人もの先輩が、この過程を経て成長していますので、安心していただきたいです。

――表記の規則や仕事の組み立て方などを、細かい段階を経て学べるのですね。安心できそうです。それでは、優れた情報源を見つける能力は、どうやって磨くのでしょうか? あらかじめセンスを持っていることが必要そうにも感じますが……?

永井: その点も、最初から優れたセンスを要求してはいません。ただ、自主的な情報収集はしていてほしいですね。自らの興味のある分野を持って、情報を集め、比較して眺めることで、光るものを見つける目が磨かれます。1人で全ての領域はカバーできませんから、得意分野やそうでない分野があるのは当然ですが、多くの情報を俯瞰的に眺める姿勢があれば、入社後に領域の横展開をしていくことはできます。

垣内: 面接でも、興味のある分野や注目している記事は必ず質問します。そこで、自分からいきいきと話してくれると、没入できる力を感じて高く評価できますね。われわれとしても定量的な尺度があるわけではなく、あくまでも雰囲気ベースではありますが……。

 編集記者というと、情報発信に対する強い意欲のある候補者を求めているのですか? と聞かれることもよくあります。われわれはむしろ、強いインプット意欲を求めています。興味を惹かれる分野があり、自然と多くの情報を集めているので、結果としてアウトプットも溢れてくるような人が、採用したい候補者のイメージですね。編集や執筆の技法は学ぶこともできますが、情報収集への意欲は必ずしも意図して身に付けられるものではありませんから。

 加えて、オンラインメディアの編集記者には、SEOや読者エンゲージメントの知識も必要になります。私が所属するメディア開発部は、コンテンツ面からSEOや読者エンゲージメントについて戦略を立てて、施策を実行するチームです。われわれも試行錯誤を続けている状態ですので、メディアやテクノロジーのトレンドに敏感で、新しいことにチャレンジしたい方と一緒に働けると嬉しいですね。

ロングテール記事

――情報収集の意欲が重要なのですね。その他に、アイティメディアの編集記者として重視していることはありますか?

永井: 読者との接点のひとつひとつを大切にして、メディアのファンになってもらえるような情熱を持ってほしいですね。オンラインメディアの強みとして、アクセスの解析ができるので、読者の動きはよく分かります。その結果を見ると、読者とメディアの接点は一期一会になっています。メディアそのものを読みにくる読者は少なくなり、検索からの流入や、影響力の強い個人に推薦された記事のみを読みに訪れることが多いです。そのような読者に、メディアそのものに興味を持ってもらうためには、読者の需要により一致する記事を多く掲載しなければなりません。専門性の高い記事の場合、公開後も適宜見直しを行い、ターゲットとする読者に継続して届くよう工夫を続けています。

垣内: Webメディアというと、速報性が高く、新しい記事を次々に出すイメージを持たれがちかもしれません。しかし、BtoBのWebメディアは、ストック記事の性質が強いです。記事に何度も手を加え、読者や業界の状況変化に合わせてバージョンアップを続けます。息の長い記事に対しては、まるで我が子の成長を見守るような気持ちになります。そうした記事をわれわれは「ロングテール記事」と呼んでいます。ロングテール記事を作成できるのは、編集記者としての喜びのひとつです。

永井: ロングテール記事が果たす役割は、近年のビッグデータ処理で分かってきたことのひとつです。メディアの会員登録のきっかけとなった記事を見てみると、1ヵ月に5名、10名であっても、長い間継続して会員を獲得しているものがあります。そうした記事は、目立つものではなくても、編集記者たちも覚えています。また、ロングテール記事をきっかけに会員となってくれる層は、しばしば高度な知識を持った専門家です。会員制メディアは非常に小規模な世界ですが、その中のコア層といえる会員ですね。

垣内: ロングテール記事に関連した、IT領域編集記者のキャリアの長所として、キャリアを積み上げる価値を感じやすいことがあります。IT領域は専門性が高く、関係者も他の領域と比べて限られるため、業界やクライアント企業と長期間に渡って関わることがしばしばあります。メディアという立場上、第三者的な視点にはなりますが、業界全体の変遷を見守ることで、ある種の愛情が生まれてきます。業界と共に自身も編集記者として成長できる感覚は、他の領域のメディアではなかなか経験しづらいことかもしれません。

多様なキャリアに伴走する

――キャリアについてのお話がありましたが、IT領域の編集記者には、どのようなキャリアパスがあるのでしょうか?

垣内: 他の領域と同じく、たくさんの選択肢があります。現在の編集部員には、自身の専門分野に特化して、取材を重ねる人もいますし、より多くの読者に情報を届けたいと考え、発信に重点を置く人もいます。スペシャリスト以外にも、マネジメントの立場から、メディア全体のプロデュースや組織での目標達成を追求するキャリアもあります。編集記者に留まらず、企画職として専門性を深めたり、メディア全体の運営を担ったりする可能性もあるでしょう。キャリアが浅いうちは、たくさんの経験を経て、自分の志向や能力に対する理解を深めてほしいです。

 ちなみに、IT領域の編集記者を中途採用する場合、将来像のイメージも面接で必ず質問しています。ご本人のキャリア志向に合わせて、われわれも挑戦機会を提供したいと考えています。

――入社以前から、個人のキャリアに伴走しているのですね。入社後も着実なサポートを期待できそうです。

 最後に、この記事を読んでくださっていて、アイティメディアの編集記者にチャレンジしたいと意欲を持っている方にメッセージをお願いいたします。

永井: 普段の業務で情報発信をする機会が少ないと、能力に気づく機会は多くないと思います。先ほどもお話ししたように、編集部ごとにトレーニングのプロセスも構築していますので、現状で編集や執筆のキャリアがなくても、意欲があれば選考を受けていただきたいです。

垣内: BtoBのIT領域メディアは、自由度が低いと思われるかもしれませんが、自分の発案で企画を立てられますし、編集記者個人の裁量も大きい分野です。情報収集に強い熱意のある方、自ら考えて動ける方をお待ちしています。